調子のいい頃は全工程に１０分もかからなかったというのに

幸いぼくらにはそれなりに才能もあるはずだ。今のところ良きコーチにも恵まれている。そうだ。自信を持て。さあ今度は「夢」に向かって力強く走る彼女の姿を、辛い練習にも懸命に立ち向かう彼女の姿を頭に思い浮かべるんだ。眩しいか？いやそんなことはない。なぜならぼくもまた同じだからだ。ぼくらはまだまだ強くなれる。もっともっと強くなれる。強くなる強くなる強くなるんだ！練成したばかりの闘志を静かに吐き出しながら、瞑っていた目を開く。こうして、日課の精神統一が終わる。

時計に目をやると、一時間ほども経過していた。あの事故以来、イメージの結合にますます時間がかかるようになった。調子のいい頃は全工程に１０分もかからなかったというのに。こうして客観的に、自らのメンタル状況を認識する。ずいぶんコンディションが乱れているようだ。だが、それを気に留めてはいけない。乱れているからこそのコンディショニングだ。そう思えばいい。ただ整うまでの時間が少し長いというだけの話だ。大丈夫。なにも気にしなくても走力そのものはどんどん伸びている。タイムも早くなっている。怪我が治れば、また遅れを取り戻せばいいだけのことだ。

それに今だって、少しくらいはできることもあるのだから。今日も新たに決意を重ね、筋力トレーニングに取り掛かる。今は走ることができない分、回数を多めに設定し、さらに大腿部のトレーニングも特別に追加する。数種織り交ぜたセット腹筋は計５００回、背筋は１００×３セット、腕立て伏せはまだ右足に体重をかけられないため膝をついた状態で２００×３セット、そして仰向けに寝た状態で片足を上げ八の字を描く運動を各足１００×３セット。これらのメニューをダレずに、真摯にこなしていく。大丈夫。「夢」は叶う。きっと叶う。

巨人倍増
紅蜘蛛

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